コロナ禍の2020年4-6月期のGDP値で思ったこと

 2020年4-6月期GDPの第二次速報値によれば、前期比で約8%、年率換算で約28%減という結果だった。以前に『新型コロナ肺炎に見る感染症問題の理不尽さ - supplysideliberaljp’s blog』を書いた時には、この一年で一体どのくらいのGDPが失われるのか?2割くらいだろうか?などと心配したものだった。4-6月中全てが緊急事態で人々が強く自粛したわけではなく、年率換算はかなり大袈裟な数字だろう。従って、この結果から年間のGDPの減少はやはり1~2割くらいがせいぜいなのではないだろうか?経済か感染拡大かという二択の考えは単純過ぎるが、経済重視の立場の人が「経済を全部止めてまで自粛していいのか」などと感情的に言うのを聞くと、一体自分が何を言っているのか分かっているのかと疑問に思ったものだ。GDPの数字を見ても経済のかなりの部分は動いている(そりゃそうでしょう?)。ただし、気になるのは2019年の日本経済はあまり良くなかったので、そこから比べるとダメージは小さめに出ているかもしれないが。

 第二次速報値は一次から多少の下方修正があったが、一次と二次との違いが大きくなるのは、企業の設備投資に対して、第二次速報値では法人企業統計の結果が推計に加えられることが大きいようだ。ちなみに前回の1-3月期では、コロナの影響などで法人企業統計の集計が遅れ、その第二次速報値は8月に再修正が発表された。それに先んじて発表されていた法人企業統計の設備投資は大幅減少であったが、GDP統計の第二次速報値の再修正で設備投資は逆に上方修正された。不思議に思って調べると、設備投資の季節調整前(原系列)は前期比マイナスである一方、季節調整後はプラスに転じていた。(2020年末現在で1-3月期の設備投資の前期比は現系列で―2%、季節調整で―3.7%となっているが、4-6期と7-9期の速報値は現系列の方が季節調整値よりマイナス幅が大きい。季節調整はデータが更新されると調整値が再推計される。)このコロナ禍の設備投資の減少の大部分が季節要因によるものだとすれば信じ難い。この4-6月期では第一次速報に対するGDPの下方修正は設備投資の下方修正によるところが大きい。設備投資は季節調整前も後も、共に前期比マイナスであったが、調整前(原系列)のマイナス幅より調整後のマイナス幅の方が小さかった。季節要因が全ての季節でプラスなはずはないだろうから、後半は設備投資にネガティブな季節要因を持つことになるのか?(つまり、現系列で前期比で改善にして季節調整値では低く出る?)

 しかしながら、GDPの1~2割の減少は決して小さいものではない。『新型コロナ肺炎に見る感染症問題の理不尽さ - supplysideliberaljp’s blog』にも書いたが、更に問題なのは産業毎にコロナの影響を受ける度合いが大きく違うことである。逆に国民全員の所得が一様に減少するならば、経済的なコロナの影響はまだ我慢できる範囲ではないだろうか?しかし、現実は産業毎に受ける影響の差は激しく、人によってかなり経済的にも厳しい状態を強いられる。私達にできることは、財政の所得再分配機能を発揮してこの難局を乗り越えることだろう。例として年間GDPが15%減少し(以降の数値の設定はかなり適当である)、国民の15%の人の所得がゼロに、それ以外の85%の人の所得は変わらないとしよう。例えばこの場合、所得の変わらない人から所得の1割を拠出してもらって、所得がゼロとなってしまった15%の人に給付すれば、彼らの平時の所得の約57%を補填することができる。考え方としては、自然災害で損害を受けた特定の地域の人を経済的に救済するのと何ら変わらない。この意味では、国民に一律の定額給付金や消費税減税は意味がないし、真に必要な人への支援が少なくなってしまうだろう。日本の(平時の)GDPを500兆円強としても以上の例では45兆円くらいの所得移転となり、十分現実的に可能な数値ではなかろうか?ただし、15%の所得ゼロの人が支出を絞れば、残りの85%の人の所得が変わらないことはなく多少の減少はあるはずである。従って、以上のような給付がこのGDPの2次的な減少を緩和する効果があるだろう。また、財源は取り敢えず国債発行でもよく直ちに税金を徴収する必要はないが、国債を発行すること自体でGDPが増えるわけではないことには注意する必要がある。

 現実的な困難は、そこに所属する人の所得が極端にゼロになる産業ばかりではないし、どの産業がどのくらいの影響を受けるのか、更に個人の所得の減少などを即座に特定するのはほとんど無理なことだ。これには過去の納税のデータを利用することが考えられよう。例えば(以下の数字も適当)、給与所得者や自営業者個人に対して、今年の課税所得が昨年(あるいは直近3年間の平均など)の課税所得の半分に満たない金額を給付する。今年の課税所得は納税期まで分からないが、例えば希望者には申請から毎月10万円を給付し、納税期になって算出された今年の課税所得が昨年の半分を超えていたら、給付金を全てその時に返納させる。昨年の課税所得の半分より今年の課税所得が少なくても、その差額以上に給付金が支給されていれば、その分は返納させる。逆に昨年の課税所得の半分と今年の課税所得との差額が給付金額よりまだ大きいなら、その分を納税手続きとともに更に補填してもよいかもしれないが給付上限は必要だろう。このようなやり方なら迅速な給付ができるし、マイナンバー制度の下で十分可能ではないか?

 企業支援も無視することはできない。企業の消滅に伴って失われる経営資源がないとは限らないからだ。更には『新型コロナ肺炎に見る感染症問題の理不尽さ - supplysideliberaljp’s blog』では「社会の感染確率を下げる行為に対する報酬が必要(休業を条件にした補償)」と書いた。これには過去の売り上げ(営業収益)に基づいた補償が考えられる。売上高から従業員給与や家賃が支払われる。例えば、以上と同様に税務データから一年間の売り上げを推定して300程度で割って一日分を算出し、これの何割かを休業要請に応じた日数分給付する。推定された売上高の規模別に、小さいカテゴリーの事業者には売上の4割程度、売上高が大きいカテゴリーの企業(あるいは雇用調整助成を受ける企業)には売上の15%と雇用調整助成金を組み合わせるなどが考えられる。医療支援も依然最優先だが、感染症に対する対処などが改善するなどすれば、休業要請は必要ではなくなるかもしれない。しかし、休業要請がなくなっても、人々の活動が元のようにならない限り、観光業などはダメージを受け続ける。従って、補償付きの休業要請は救済策でもある。どの範囲に休業要請するのか、いつまで要請するのか、要請解除後どのような制約を付けるかなど困難なことを迅速に決めていく必要があるが、都道府県毎に試行錯誤しながらやっていくよりほかはないだろう。

 

 まとめ

 

・新型コロナ感染下でも、経済の大部分は動いている。

・しかし、影響を受ける度合いが産業や国民の間で激しい。

・自然災害の場合と同様に、所得の減少が大きい人への財政の所得再分配機能の果たす役割は本来大きいはずだ。

所得再分配機能の一つの柱は徴税制度であり、適正な給付に拘って給付を躊躇するのではなく、税制度を利用して事後的に調節すればよい。